10月22日に行われた緑苑祭の学科シンポジウム「知的障害のある親に対する支援の現状と展望:国際的な視点から」に向けて、本学科の学生がアンケート調査を行いました。
今回は、アンケートの調査結果の分析および考察(学生作成)をご紹介します。
<以下、学生による分析および考察>
10月22日に開催された学科シンポジウムに向け、本学の大学生、他大学生、大学院生を対象に、「知的障害者の結婚・子育て」についてのアンケート調査を行った。
1.調査の目的
このアンケートは障害福祉に関する問題意識を調査し、学科シンポジウムの一環として「知的障害者の結婚・子育て」についての考えを調べるとともに、諸外国の知的障害者の結婚と子育ての現状について比較することを目的とした。
2.調査の方法・調査対象者の選定
調査対象:本学の学生・大学院生・他大学生 計293名
集計手段:Googleフォーム
実施期間:2023年9月22日から10月9日
アンケート調査のまとめ:KJ法
3. 調査内容
障害者に対する問題意識を調べる項目として3つ質問を設けた。
① 障害者が結婚をしたり、子育てをしたりするイメージがあるか(ここでの障害は、身体・知的・精神の3障害をさす)
〈回答結果〉
「障害者が結婚したり子育てしたりするイメージがある」47.8%
「障害者が結婚するイメージはあるが、子育てをするイメージはない」」41.3%
「障害者が結婚したり子育てしたりするイメージはない 」8.9%
他、結婚のイメージはないが "子育てのイメージはある" "人それぞれというイメージがある" などの回答があった。
②知的障害者が子を産み育てる権利があると思うか
〈回答結果〉
「知的障害者が子を産み育てる権利がある」88.7%
「知的障害者が子を産み育てる権利はない」4%
「知的障害者が子を産み育てる権利があるかどうかわからない」 8.9%
③ 知的障害者が子を産み育てることは現実としてできると思うか
〈回答結果〉
「知的障害者が子を産み育てることは現実としてできる」30.4%
「知的障害者が子を産み育てることは現実としてできない」9.9%
「知的障害者が子を産み育てることが現実としてできるかわからない」59.7%
"できないと思う"と回答された方に、そのように考える理由として該当するもの全てを選択してもらった結果、
"周りのサポートが足りない" 59.6%
"福祉サービスが足りない" 58.6% という回答が多かった。
また「知的障害者が子を産み育てることは可能である」と回答された方に自由記述の欄を設置しその理由を聞いてみた。
KJ法を用いてまとめたところ、大きく以下のように分けられた。
・テレビやSNSなどの情報
・回答者自身の体験に基づいたもの
・障害の程度によっては可能である
・社会資源や支援が整っていれば可能である
・そもそも権利で保障されている
などがあげられる。
そのほか、" 知的障害者に限らず経済力と生活能力があること" や "本人の意思があることが前提" と考える方もいた。
北海道江差町(えさしちょう)の社会福祉法人「あすなろ福祉会」が運営する知的障害者施設で、結婚や同居を望む利用者カップルに不妊処置を提示していた件についての問題意識を調べるものとしてあすなろ福祉会の事件についての質問を設けた。
① あすなろ福祉会の事件について知っていたか
〈回答結果〉
「あすなろ福祉会の事件について知っていた」26%
「あすなろ福祉会の事件について知らなかった」74%
この事件が起きたと思う理由を自由記述の欄を設置し、アンケート回答者全員に聞いた。
その中で出た意見を、KJ法を用いてまとめたところ、大きく以下のように分けられた。
・社会の障害者に対する理解や支援環境が不足していること
・本人の養育能力が充分でないこと
・施設側の負担になることから、支援の不備や権利を奪うといった障害者の子育てを拒む方針
・優生思想の考えから障害者を社会的に排除する考えがあること
・障害者は子育てが出来ないという個人や施設の偏見があること
・支援やサポートを受ける場合、養育責任はどこにあるのか
というものが挙げられた。
そのほか、"リスクを回避する為/生まれてくる子どもの発達に障害をきたす可能性"や"悪気なく命を奪ってしまう可能性がある"など『子どもが可哀想である為』と考える人もいた。
② どうすればこのあすなろ福祉会の事件が起きなかったと思うか
〈回答結果〉主に回答率が高かった選択肢は以下である。
「制度の充実」34.5%
「偏見の解消」28.4%
「障害の理解の促進」22.7%
今回のアンケート調査では、他大学を含め多くの学科から回答をいただいた。そこで学科ごとに回答の違いが見られるかどうかの分析を行った。
① 知的障害者が子どもを産み育てる権利があると思うか
学科によって、ばらつきがみられた。"権利がある"と回答した学科が多く、次に"わからない"が多かった。一方"権利がない"と回答した学科はほとんどなかった。このことから、全体的に"権利がある"と考えている人が多いことがわかる。
また、「権利がある」と回答した割合は、英コミ(94.7%)、栄養(92.3%)、教育福祉(91.9%)の順であった。教育福祉学科は第3位であった。
教育福祉学科において、普段の授業等において価値観ができ、"権利がある"と答えた割合が最も高くなるのではないかという予想をしていたが、今回の結果だけでは関連性を見ることはできなかった。
②知的障害者が子を産み育てることは現実としてできると思うか
"できる"と回答した人の割合は、教育福祉や児童学科が多かった。この結果から、福祉の視点などでの子育てを学び、知っていることが影響しているのではないかと考えられる。
また、全体的に"できない"と回答した人は少なかったが、"わからない"の回答が多い結果となった。
③ あすなろ福祉会の事件について知っていたかどうか
この事件について"知らない"と答えた人が多かった。
あすなろ福祉会の事件を知らなかった人の割合は、学科によって大きなばらつきは見られなかった。
教育福祉学科で"知っている"と答えた人の割合は約4割であったが、日ごろから福祉について学修している学生でも"知らない"と回答した人の割合が多かった。
【全体まとめ】
アンケート調査の反省点として、" 誘導尋問になっていた部分があったのではないか" や "学科による大きな違いなどはみられなかった" ことである。ここから、もっと学科ごとに着目している点など、違いをみることができる質問項目を用意すべきだったのではと感じた。
今回のアンケート調査では、学科関係なしに「知的障害者にも子育てをする権利がある」と回答した人が多かった。しかし、" 権利がある"と回答した方がほとんどにも関わらず、「現実に子育てができると思うか」という問いに対しては、"わからない"と回答する方が多かった。また、「あすなろ福祉会の事件について知っているか」という問いに対しても、"知らない"と回答した人が多い結果となった。
このことから、学科に関わらずすべての人々が問題意識を持ち "知ってもらうこと"が共生社会にとって重要なことであると考える。知らないからこそ"わからない"といった答えが多くなるのではないだろうか。多くの人たちに障害の正しい理解や、日常生活などを知ってほしいと改めて思った。
また、"権利はある" と回答してくれた方が多くいるのだから、"子育ても可能である"と回答してもらえるように働きかけていくことの必要性を感じた。
そのために、制度の充実や周りのサポート等"不足している"という回答に対して、福祉業界だけでなくそれぞれの業界の強み・特性を活かし力になれることを考えていくことやそれぞれの人、専門等の様々な力を集め取り組んでいくべきだと考える。そしてそれが合わさることで大きな力となるのではないかという結論に至った。
講演の最後には、シンポジストのモーリス・フェルドマン博士と学生で写真を撮りました。